ケーススタディ妙録

         片麻痺・空間無視のある患者の整容動作確立へのアプローチ
         ―自己効力感を高める関わりについて学んだこと―



はじめに
 今回、脳梗塞の後遺症により、この半側空間無視の症状を持ち、リハビリテーションに積極的になれないでいる患者さんを受け持った。受け持ち時には必要な加療への意義を見出ない状態で、自身の現状を悲観的に捉え、回復への意欲を持ち得ないでいる患者に、心理学者バンデューラのいう自己効力感という「自己に対する有能感・信頼感」を持ってもらえるような援助を模索し、整容動作の援助を実施することで、回復への意欲を持ってもらえたとの発言を得ることが出来た。患者さんの意志力を高めるための援助の大切さを確認したので、ここに報告する。
Ⅰ.患者紹介
 氏名: A氏、70歳代、男性 診断名:右中大脳動脈血栓脳梗塞
Ⅱ.看護の実際
整容動作の促しに対し、A氏は意欲的に取り組むことができ、セルフケア能力の低下が、二次的な障害を発生するという事態を回避するための足がかりを得た。自身の残存機能を利用し、鏡を見ながら顔面をタオルで清拭してもらい、評価方法を提案した上で自己評価してもらい、単純な同じ作業を毎日繰り返した。評価は自信で行ってもらうことを徹底し、学生からは成功時に共感的に支持することのみを行った。A氏の自己評価は日々高まっていき、行為への積極性も増大していった。最終日には、行為自体が回復への過程でありこれからも積極的にセルフケア拡大を図りたいとの発言が聞かれた。
Ⅲ.考察
保健行動が効果的に行われていく為には自己効力感という確信を持たなければならない。A氏は当初リハビリへの理解をもちにくい状況にあり、自分自身の力を信じて「何とかやっていくのだ」と思えないでいた。そのようなA氏にも援助は遂行されなければならないが理解をしてもらうための言後のみによる説明が功を奏するとは考えにくかった。そこで治療をするのが当たり前であるという前提を押し付けず、そのひとなりの意味を見出してもらうような援助方法を考え実行した。行為を簡単な方法にしぼったことで、自分で行動して必要な行動を達成できたという経験を持ってもらい、実行できたことに対し、周りから支持され、励まされ、清潔感という気持ちよさを感じてもらった。また評価方法の尺度を決め、自身の行為を常に振り返る機会を持ってもらった。 A氏との関わりは、顔面清拭の援助を通して育まれ、発展した。そのアプローチが精神的に良好な反応を起こし、バンデューラの述べた自己効力感を高める刺激要因に含まる「遂行行動の成功体験」、「言語的説得」、「生理的・情動的状態」に反映され、今回の行動達成に重要な働きをしていたと考えられる。
Ⅳ.結論
患者の整容動作確立への援助を通し、自己効力感を高める関わりについて、以下の結論を得た。
1.実現可能な目標をもつことが原動力となり、自立に向けて積極的な行動がとれる。
2.周りから支持され、励まされることで自信につながり、行動意欲を高める。
3.自身の行為の達成度を測る基準を持つことが、行動意欲を高める。